ホンネ 技ありの人間関係

知能対決


テレビ番組で「人間の知能をはるかに超える人工知能」と言っていた。本当だろうか。「人間の走力をはるかに超えるクルマ」とか「人間の筋力をはるかに超えるゴリラ」と言われても平気なのに、不安になったのは、知能は人間の一番の誇りと思っていたからだと気が付いた。

人工知能と人間の知能とどこが違うのだろうかと考えていたら、新聞に人工知能(AI)の弱点が載った。東大入試に挑戦する「東ロボくん」を開発している新井紀子さんの言葉「AIは意味がわかっていない」である。例えばセンター模試の生物の問題「ネズミの脳下垂体を除去したらどうなるか」。「ホルモン分泌がなくなり尿量が増える」が正解らしいが、AIの得意とする論理的思考や統計では「血が出るか、死ぬかだろうな」の解答となるらしい(毎日新聞平成28年12月24日)。

間違いではないが入試には合格しない。「入試の問題だから授業でならったはずだ、そういえば…」というように考えを巡らせ、出題者の意図(意味)を予想する力。ことばの背後、下にあるものを感じる力。この力こそ機械と人間を分ける心の力と言えまいか。人工知能にできないこの能力を鍛えないといけない。

そこで大学の「コミュニケーション論」で「ことばの背後にある意味や感情に気付く」というのを練習するようにした。例えば、「今度の日曜日に引っ越しするんだ」と言われたとする。そのことばの下にある心情を予想する。その心は「手伝いに来てほしい」「寂しくなるよ」などなどである。

「引っ越すよ」と言われ、「そうですか」ではなくて、言った人の心根(こころね)をとらえて「手伝いの手は足りていますか?」と返せば、心と心がふれ合えるのである。正解でなくてよい。大切なのは、「言葉の“下にあるもの”を説明できる力と、逆に心根をことばにする力である」と講義を終えた。

すると学生から質問のコメントが来た。「心とことばをつなぐのは難しい。プロポーズのことばがいい例です。うちの兄は永遠に愛する覚悟をことばにしようと悩んでいました。そして『おばあちゃんになった君を守りたい』とプロポーズしました。ケンカになりました。兄のことばに何か問題があったのですか?」。私は仕事を尋ねた。「兄は介護士です」。うーん…、その勝負引き分け!