ホンネ 技ありの人間関係

初春から何してんだか

運が良いのか悪いのか分からないことってある。

講義を終えて、後片付けに手間取っていた。突然、教室の照明が切れて真っ暗になり「ガチャッ」と出入り口のカギが掛かった。「しまった。自動施錠システムだ。閉じ込められた」。市立大学本館の教室はすべて中央で管理されている。授業が終わり、一定時間たつと自動的に施錠される。入れないし中から出る方法も知らなかった。

夕方6時過ぎで外も暗く、教室の中は真っ暗。室内電話の横に貼ってある電話番号一覧表も暗くて全く読めない。受話器を取ってやみくもに番号ボタンを押したけれど、つながるはずもなかった。携帯電話も持参していない。

出入り口をドンドンと叩いたけれど外には誰も歩いていない様子。「ウワー! ここで一晩過ごすのは寒すぎる」と情けなく感じながら「待てよ。先ほどは電話番号を3ケタ押した。確か学内の電話は4ケタだった」と思い直し、もう一度受話器を取って、メチャクチャに4ケタのボタンを押した。

すると呼び出し音が聞こえてきて「もしもし」と女性の声。助かったと思い、「すいません。心理学の中島ですが閉じ込められています。保安に連絡していただけませんか」「え! 私いま授業中なんですが…。分かりました」と、私の切羽詰まった声に驚かれたようで電話は切れた。

しばらく待つと足音がして教室の外からその先生の声。「大丈夫ですか。もうすぐ解除されますから…」と駆けつけてくださった。ドアを開けるとその先生が立っておられた。私の顔を見るなり、「先生の後任で参りました○○です。ごあいさつが遅れまして」と言われた。びっくりした。

私の後に着任された先生だった。私もいつかごあいさつせねばと思っていたのだ。「こんな形ですいません。中島です」と訳の分からないあいさつをしている自分が情けなかったけれど、一方でやみくもに押した4ケタの番号がつながるのも不思議だし、出た人があいさつをせねばと1年以上思い続けた方だったという運の良さにびっくりした。

その日家に帰り、妻に「“災い転じて福となす”。俺は本当に運の良い男だ!」と胸をはって言ったら、「運の良い男は最初から閉じ込められないでしょ。フロ入って早く寝なさい」といつものように口に自動施錠された。