ホンネ 技ありの人間関係

お父さんごめんなさい。この程度で。

うちの父は造船所の工場長だった。面倒見のよい性格から多くの人が相談に来ていた。結婚の仲人も40組以上していたと思う。子ども心に私が面白かったのは相談に来た人に言う父の締めくくりのことばだった。

「牛のくそもダンダンだからな」と言って笑うのだ。その時は意味はよく分からなかった。今思うと恐らく「万事この世は順番と秩序。順番を間違うな」「どんな積み重ねも必ず報われる」などの意味があったのだと思う。

不思議だったのは言われた人の顔が笑顔になることだった。生活の中に牛のふんのあった時代がある。恐らく父も誰かに教わったことばだろう。「尻拭いた紙で鼻はかめないが、逆はできる」などもあった。おかしみのある語感と調子はことばの説得力を倍加させる。

昔の人が口癖のように大切に伝えてきたことばには不思議な力がある。他にもあるのだろうかと知人に問うと「見てござる」を教えてくれた。誰も見ていないときにいい加減な行動をしてしまいそうになる。そんなときに幼い時から祖父母に聞かされてきた「見てござる」の星のことばが天から降ってくるという。「天知る。地知る。我知る」。誰かが見ているので悪いことはできない。

しかし3代同居の家も少なくなり、生活も変化してきた。牛のふんなど見ることもない。このような「覚えやすくて、含みのあることば」が、幼子に伝わっているのか心配になってきた。でも大丈夫である。「絵本の中にあるので子どもに読んで聞かせるとよい」と柳田邦男が「ねこのごんごん」(福音館書店)を紹介している。

主人公のごんごんは失敗するたびに兄貴分のねこに言われる。「なにごとも じぶんで おぼえるのがかんじん。わかったか」。絵本の中で繰り返し出てくるこのことばは何ともユーモラスで面白いとある。生き方の基本がしみいるように心に入ってくる。

どんな人でも腹の立つことはある。相手の邪悪な心を一気に粉砕し、場を彩りたいときがある。そんな相談を受けたら何と応えよう。大型打ち上げ花火のようなパワーのあることばを伝えたい。「くそ食らえ!」もその一つ。でも品のないことばは使ってもらいたくない。そんな時は上品な顔で「うんこ召し上がれ!」