ワタシの本音 技ありの人間関係

弱者の戦略

昔は先生で今では立派なおじいさんたちが集まり、勉強会をしている。

先月の勉強会の一幕。生物学者のAさんが突然「ダンゴムシは障害物にぶつかると右と左どちらに曲がるか?」と皆に質問した。ひげの政治学者Bさんは「それは年齢で違う。若いダンゴムシは右だ。若いという字には右が入っとるからだ。ハハハハ」と笑った。答えは「決まっていない」。みんな、なあんだという顔をした。

するとAさんは「ただし、右に曲がったダンゴムシは次にぶつかったら左に曲がる。その次は右にというように右・左・右・左と交互に方向を変える。これを“交替性転向反応”と呼ぶ」。「ホ~」と皆が感心した。確かに右ばかり曲がるとグルグル回ることになる。天敵から逃げるための習性だという。「右ばかり見るのが若者。左も見てバランス良く生きるのが大人だと若者に説教せんといかんな」と嬉しそうに体育学のCさん。

ここで僕が「今日の本の紹介はこれです」とかみさんから借りてきた本を出した。「弱者の戦略」(稲垣栄洋著/新潮社)である。自然界は弱肉強食の厳しい競争社会。ナンバーワンの強い者しか生き残れない。それなのになぜダンゴムシやナメクジなど他愛もなく弱いと思われている生き物がたくさんいるのかが説明してある。

例えば他の生物と少しずつ棲(す)む環境を「ずらす戦略」がある。一例を挙げると、時間をずらして夜行性になる。エサやライフスタイルをずらすことで同じ場所でも共存することが可能である。「棲み分け」と呼ばれる。そうやって弱者であってもそれぞれがナンバーワンをキープしているのだ。

パラパラと本をめくりながら医学畑のDさんが言った。「面白そうなのはナマケモノの箇所ですね。恐ろしい天敵のジャガーから逃れるために徹底して“動かない”という戦略を立てた。しかしエサを取るためには動かないといけない。動くとやられる」

そこで彼らは誰も食べない“毒のある葉”をエサにした。「動かないのでエネルギー消費も少なく食べる量も少しでいい。動かず、目立たず、生き残る」。聞いていた私は「まさに僕みたいだなー」と恐妻家の暮らしを振り返った。

家に帰って妻に「私の戦略は何だと思う?」と問うと、予想通り「ナマケモノ」といわれた。そうだろうな。妻という字が毒に見える時があるん・ジャガー。


リビング北九州2018年8月4日号掲載