ワタシの本音 技ありの人間関係

幸せの道

回想法とは昔の経験を話し合うことで元気になる心理療法の一つである。

母に若き日の苦労を尋ねると目に力が戻った。昔を思うと勇気リンリン。昔も昔、自分の胎児だったころの奮闘も思い出したら元気になるのだろうか。胎児の心理を講談調に講義した。

「胎児がんばりの一席。よろしくお付き合いのほどを。さて、山海の珍味と温泉。酒はないものの心地よい振動。人生に極楽ありせば母の胎内もその一つかも。温度は一定。栄養はへその緒を通じて万全。胎児はあたかも宇宙遊泳のごとく羊水の中で楽しく遊んでおります。

そして“とつきとうか”。『ビィービィー!』と警戒警報の鳴り響くやいなや、何ということか突然えりがみを掴まれてエベレストの頂上に引っ張り上げられるほどの酸欠状態に見まわれる。酸素不足だと脳はアウト。危険を察した胎児は血液中のヘモグロビンを大量に増やします。そのため全身は真っ赤となる。“赤ん坊”の由来です。

さー! そこからが大変。仏典では生まれ出る苦労を生老病死の一つ。生苦(しょうく)と呼ぶほど。いよいよ陣痛が始まり、産道に導かれた赤ん坊。まずその狭さにびっくり。でも後には引けず覚悟を決めて困難な道に挑む。狭い産道をくぐる時の圧迫感は尋常ならず。その痛さ、苦しさは筆舌に尽くしがたし。このダメージは重度の交通事故に匹敵するとある医学者は言った。1ミリ刻みの前進と苦難は永久に続くかと思うほど。

と、こうするうちに、やっとゴールの明かりが見えてまいります。この赤いチャンピオン。生まれるやいなや大声で“死ぬかと思うたわー”と叫ぶのですが、私どもには“オギャー”としか聞こえない。“赤んぼの口よりそれと言わねども昔思えば勇気溢れる”胎児がんばりの一席、これをもって読み終わりといたします」(拍手)

この話、思わぬ効果があった。聞いた学生の次なる感想。「私は今まで生きてきた中で“本気で頑張ったことはない”と思っていました。そしてそれを“私は頑張れない人間なんだ”と感じていました。しかし、今回授業を受け、生まれる時に命がけの頑張りをしていたことを知り、何だかすごくホッとしました。これから何か頑張る自信になりそうです」。やっぱり回想法はすごい。

最後にテーマにちなんだ小話を一席。あるレストランでの会話。

「あの2人は恋人同志かなー?」「あれはきょうだいだよ。食べてる物でわかる」「どうして?」「サンドイッチ。産道一致!」