前原歩帖、糸島を行く/第5話「君は、『寒みそぎ』を知っているか?」

糸島市白糸の熊野神社では毎年12月第3土曜日の深夜、年中行事『寒みそぎ』(かんみそぎ)が執り行われます。
 
場所は、【糸島、滝】で検索すれば1番にヒットする「白糸の滝」の少し下流にある白糸行政区。白糸の滝の水流は、川付川(かわつきかわ)となり、最後は船越湾に流れ込んでいます。

冬場、船越湾周辺の港には牡蠣小屋がたくさん賑わってますね。山からの栄養豊富な水が牡蠣をすくすくと育てています。



深夜。神事の始まりを告げる太鼓の音が鳴り響く

さて、『寒みそぎ』とは。
古来より白糸集落で続く、産土神の熊野神社に五穀豊穣を祈願する年中行事。寒中、締め込み姿の男衆が神社近くの川付川で身を清め、その傍らで年男らが神饌となる新米を川の水で研ぎ、神社に持ち帰って炊きます。そして、その炊いた白米を円錐形に整えてお供えし、翌朝、お供えした米粒の傾き具合で来年の作付けを占う神事なのです。
 
さて、以前取材した写真をお見せしながら、どのような行事かご紹介していきましょう。
 
当日、夜も深まり日をまたいだ頃、神事の始まりを告げる太鼓がドーンドーンと打ち鳴らす音が集落に鳴り響きます。それを合図に男衆が境内から川付川を目指します。その距離200mほど。提灯持ちを先頭に新米が入った木桶を担いだ年男らが続き、その後ろを無数の男衆が後に続きます。
そして川に差し掛かると、躊躇なく川に入っていきます。

12月中旬、標高300m、ダウンジャケットを着こんでいても身を切る寒さの中、腰の深さまである川の中に入っていきます。

男衆は勢いよく川に入った後、互いに水を掛けあったり、肩を組んだりしながら、次第に輪のような陣形になり、水を盛大に掛け合います。

川の両岸には、家族やカメラマン、時によってはTVクルーなど多くの見物人が。よく見る『寒みそぎ』の観光写真はこの状況を写したものです。
 

祈祷の中、幾度も幾度も冷たい水で米を研ぐ男たち

しかし、この神事の本編は冷水の掛け合いではなく、年男らの動きです。

年男らは男衆が身を清め合っている最中、少し上流に行き、米を研ぎ始めます。

幾度も幾度も、米を研ぎます。
その後ろでは、氏子代表らと神主が祈祷しています。

米を研いだ後、年男らは神社へと戻り始めます。

それを引き潮に、岸へと上がり、身を震わせながら神社へ小走りに戻っていく男衆。

境内では赤々と火が焚かれ、男衆は冷え切った体を温めようと暖を取ります。


頂点に立てる米一粒こそが、クライマックス

その頃、先ほど研がれた米が炊かれ始めます。その量、三升三合。


炊き上がるまでしばし待つ。

その頃には、先ほどまで大勢いた男衆はほとんど帰宅してしまっています。おのおの風呂や酒などで冷え切った体を温めている頃でしょう。
 
さて、炊きあがると大きな桶に移されます。作業は年男らが中心になって行われます。

次に、湯気がもうもうと立ち上がる熱々の白飯を、素手で円錐形の形に成型していきます。

途中、神主の手ほどきを受け、だんだんと形になっていきます。

クライマックスは、円錐形となった白飯の頂点に米一粒を立てて乗せます。
指先が震えてうまくいかないので何度もやり直します。この一粒が大事なのです。

そしてとうとう、大きな円錐が3つ、小さな円錐が12つ出来上がりました。

 

今年の「寒みそぎ」は12月15日深夜から16日未明

出来上がった神饌をお盆に乗せて年男らが神前に運びます。

最後は神主が神前にお供えします。

その後、年男、氏子代表ら全員がお参りして、神事は終了しました。


この時、時計は2時を過ぎていました。
 
そして、夜が明け、お供えした神饌の頂点の米粒の傾き具合を神主らが確認し、来年の作付けの吉兆を読むのです。年に一度しかない稲の収穫の良し悪しは、山間部の集落にとってムラの存続に関わる一大事だったと想像します。

集落の男衆が身をささげて氏神様に五穀豊穣を祈願する『寒みそぎ』は、いかに大事な年中行事なのかと、畏敬の念を抱かずにおれませんでした。


さて、2018年の『寒みそぎ』は、12月15日深夜から16日未明にかけて執り行われます。年に一度の神事を見に行ってみませんか?

 
前原歩帖
筑前前原駅から歩ける範囲に、宿場とレトロと今が織り交ざる街・前原。そんな街で、思わず寄り道したくなる情報を緩やかに発信します。
■Facebook「前原歩帖」 
 https://www.facebook.com/maebaru.hocho/
■インスタグラム 
 www.instagram.com/maebaru.hocho